【3414】 ◎ J・D・クランボルツ/A・S・レヴィン (花田光世/大木紀子/宮地夕紀子:訳) 『その幸運は偶然ではないんです!―夢の仕事をつかむ心の練習問題』 (2005/11 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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企業内でキャリア研修に携わる人事パーソン、キャリアの入り口にある人にお薦め。

その幸運は偶然ではないんです1.jpgその幸運は偶然ではないんです2005.jpg J.D.クランボルツ.jpg J.D.クランボルツ(1928-2019)
その幸運は偶然ではないんです! 』['05年]

 何か事が上手くいった人が、「偶然だよ。たまたま運が良かっただけ」だと言ったりもしますが、心理学者でキャリアカウンセラーでもある著者らによる本書では、想定外の出来事が本物のチャンスに変わる時、全くの偶然など存在せず、そこには、必ずその人自身が果たした「いくつかの行動」があり、そこから新しいチャンスを創り出せた人が人生を変えられるとして、45人のキャリアをめぐるケースを紹介しています。

 第1章では、人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分の望む仕事を見つけることができるわけではなく、人生には予測不可能なことのほうが多いが、結果がわからないときでも、行動を起こしてチャンスを切り開くこと、想定外の出来事を最大限に活用することが大事であるとしています。

 第2章では、自分自身も環境も変化していくなかで、自分の将来を今決めるよりも、選択肢はいつもオープンにしているほうがずっとよいとしています。

 第3章では、夢が計画どおり実現しなかったとしても、「夢は消えてしまった」と考えるのではなく、「状況が変わった。さらに自分にとってよいチャンスを探すにはどうしたらいいだろう!」と考えるべきであるとして、「夢から覚める方法」を指南しています。

 第4章では、新しいことをやるときにはリスクがあり、結果がどうなるかわからないが、結果が見えなくてもやってみることが重要であり、失敗を恐れて何もしなければ、どんな幸運も訪れてはくれないとしています。

 第5章では、新しいことに挑戦することは、時として失敗という結果につながることがあるが、間違えるかもしれないという恐怖から何もしないことよりも、間違いから学ぶことこそ成功につながるとしています。

 第6章では、過去の自分をひきずったり、意にそわない現在の仕事にこだわる必要はなく、将来に向かって自分の環境を変えていくための行動を起こすことが大切であるとして、それではどうすればよいかを述べています。

 第7章では、まず仕事に就いて、それからスキルを学べばよいとしています。スキルやキャリアを身につけるための「学ぶ意欲」こそが重要であり、逆に、要求されるスキルがあったとしても、それですべての仕事がうまくいくと限らず、変化の激しい時代には「学び続けること」こそが最も大切であるとしています。

 第8章では、行動を起こすことが重要なのに、それが時として難しいのは、自分の中にある心理的な障害によることが多く、まずはそうした心の壁を克服することに焦点を当ててみることを勧めています。

 45人のキャリアをめぐるエピソードの中は、自分のキャリアを変えられなかった人の話もあり、何が自分の望む仕事に就くことの障害になるかを知る上でも参考になります。また、各章の末尾に、章ごとのテーマに沿った「練習問題」があり、書かれていることを自分に当てはめた場合どうであるかチェックできるようになっています。

因みに、著者らの提唱するプランドハプンスタンス理論=計画的偶発性理論(本書そのものにこの言葉は出てこない)のキーファクターは大きく次の5つになるとされています。

 1.好奇心(Curiosity) 絶えず新しい学習の機会を模索し続ける
  「おもしろそうだ、やってみよう」
 2.持続性(Persistence) 失敗してもあきらめず、努力し続ける
  「同じ失敗はくり返さないぞ」
 3.楽観性(Optimism) 予期せぬ出来事を否定的に受け止めるのではなく、新しい成長をもたらす機会ととらえる
  「この異動にも意味があるはずだ」
 4.冒険心(Risk Taking) 結果が不確実でも、リスクを冒して行動する
  「先は見えないけど挑戦することに意味がある」
 5.柔軟性(Flexibility) 過去に固執せず、信念・概念・態度・行動を変える
  「過去は過去。新しい方法でやってみよう」

 上記に照らすと、本書の第2章は柔軟性、第3章は楽観性・柔軟性、第4章・第5章は冒険心、第6章は柔軟性、第7章は持続性、第8章は柔軟性について言っているともいえるのではないでしょうか。


 本書に書かれていること並びにプランドハプンスタンス理論に沿って言えば、計画や人生の目標は変わってよいものであり、道をひとつに決めずにオープンマインドでいることが重要であって、ただし、失敗を恐れて行動しなければ、何も起こらないのは確かなことであるということです。そして、キャリアの多くは予期しない偶然の出来事により形成されるが、その偶然は、自分の行動や考え方によって産み出しているといってもよいということでしょう。

 キャリアプランを立てることが重要視され、一貫性のあるキャリアばかりが評価される風潮にある中で、企業内でキャリア研修に携わるような人事パーソンは、そうした考え方へのアンチテーゼとして、このプランドハプンスタンス理論を意識しておく必要があるように思います。

 また。日本では、キャリア研修というのは中高年になったから実施されることが多いように思いますが(中高年人材をリリースするために行っている印象もある)、本書はキャリアの入り口にあるような人たちにむしろお薦めの本であり、本来であれば、キャリア研修も若手社員のうちからやるべきものなのだろなあとも思わされました(若手人材囲い込みのために敢えて行っていない気もする)。

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